チームラボ・猪子寿之がアートについて語る。「TAKI BITO」レポートvol.3
MCとゲストが、焚き火を囲んで語り合う新しい形のトーク番組『TAKI BITO』。「人生の種火 = 転機や大きなきっかけ」について、事前台本一切なしの等身大でリアルなトークを展開します。MCを務めるのは、ULTRA JAPANのクリエイティブディレクターである小橋賢児さん、女優やモデルとして活躍する高山都さん、そしてTABI LABOの代表である久志尚太郎の3人。
1月31日(水)に放送された第3回では、世界的に活躍するデジタリスト集団「チームラボ」を率いる猪子寿之さんをゲストとしてお迎えしました。
猪子さんと小橋さんの出会いは「阿波踊り」
小橋 いい感じに燃えてるね。
高山 今日の形、キレイじゃない?
小橋 うん。めっちゃキレイ。
高山 これまでのなかで一番好きかも。
小橋 なんだかんだ3回目?3回目まできて、猪子さん。僕的にはいい意味での違和感(笑)。
猪子 ほんとですか?
小橋 まさかこんなところまで来てくれるとは思わなかったですけど。
猪子 だってFacebookでメッセージきて、来いって言うから(笑)。
久志 焚き火しようぜって?
小橋 結構、ダメ元だったんですけど(笑)。「一緒に焚き火しに来てくれませんか?」って言ったら「行く」って。
高山 それこそ、友情出演!
小橋 猪子さんが来てくれました!チームラボの。
猪子 小橋さんに借りがあるといいかなって(笑)。
全員 (笑)。
小橋 怖いな(笑)。普段、焚き火とか行かなさそうですもんね。
猪子 そうですね。
小橋 焚き火どれくらいぶりですか?
猪子 小学校のイベント以来くらい。
高山 キャンプファイヤー?
猪子 キャンプファイヤー。
小橋 じゃあもう、30年とか40年ぶり?
猪子 まあでも、ヨーロッパのホテルとか行くとあるよね。
久志 暖炉的な。
猪子 そうそう。
久志 デジタルアート集団を率いる猪子さんが、ナチュラルな自然そのものの火を見て……。なんか、いい感じですか?
猪子 自然すごく好きなんですよ。自然がテーマのひとつだったりするし。自然現象とかもすごい好きだし。実際、火の作品とかもあるし。
久志 とりあえず「焚き火とか違うし」って言われなくてよかった。
小橋 僕も最初、言われるんじゃないかなって思いつつ。そもそも僕が出会ったのって、猪子さんが徳島県出身で。徳島といえば阿波踊りじゃないですか。
久志 はいはい。
小橋 それで、共通の友だちがいて。「バーニングマン」っていうネバダの砂漠でやってるイベントに行ったときに、それがすごく感動したから、今度は日本の伝統のお祭りでジャパニーズトランスを体験しようって言って。それで行ったら、仕切ってたのが猪子さんだったっていう。
高山 どう仕切ってたの?
猪子 阿波踊りって基本、勝手に踊っていいんですよ、本当は。「連」っていってグループを作って、同じような法被を着て。自分たちで楽器を弾いて自分たちで踊るんです。それですっごい昔からあったグループをある時から引き継いでいて。引き継いだころから東京の人をたくさん呼んで、体験してもらおうと思ってやってる。たぶん、延べ1,000人くらい?
表現として合ってるかわかんないけど、なかなか阿波踊りって外部の人が入れるものじゃなくて。ある意味ボーダーを越えるような入り口を作らせていただいてる。普通だとね、田舎のお祭りってその田舎の人しかどうやって入っていくかわかんないし、閉鎖的だったりするから。そうじゃなくて、踊って体験してはじめて、ずっと続いてきた意味がわかると思うから。東京から来て、ちゃんと踊れるっていう場を作りたいなって思ってやってる。
高山 踊れない人でも行って楽しい?
猪子 踊れるんですよ。人はみんなもともと踊ってたんだから。
高山 でもヘタクソとかうまいとか……。
猪子 ないですよ。誰も見てない!
小橋 誰も見てない(笑)。
猪子 自分のために踊るから。
高山 自分が楽しかったらいいのか。
猪子 踊りって人類すべての文明にあるわけで、すごくプリミティブなことで。だから、踊れるんだよ。
小橋 見てればどんどん学べるし。
猪子 小橋さんとかすぐうまくなるタイプ。俺とかは永遠にうまくならないタイプ(笑)。
高山 なんかわかる気がする!
猪子 (僕は)すごくプリミティブな……。
小橋 (猪子さんは)すごく感覚派なんだよ。
猪子 思想に忠実なので。小橋さんは、現代社会のことも加味して。そうは言ってもみんな見てるからって。
全員 (爆笑)。
小橋 わかった、わかった(笑)。
久志 乾杯しよう、とりあえず(笑)。
どうせ作るなら、世界で戦えるお茶を。
猪子 今日はね、お茶を持ってきたんですよ。
高山 すごい飲みそうな見た目なのに、お酒飲まないんですか?
猪子 お酒めったに飲まないですね。飲んでるっていうか、飲まれてるっていうか(笑)。
小橋 年に一度くらい開放するよね。
猪子 友だちが作ってるお茶で「EN TEA」っていう。僕もちょっと関わっていて。佐賀県の嬉野ってところで、自然農法で作っていて。……って、作りながら話した方がいいね。
高山 なんかお湯の温度とか、そういうの知りたい。
猪子 そうそう、いいこと聞くね。……って淹れてから話せってね(笑)。
高山 手伝う?
猪子 誰か70秒だけ数えて。
小橋 セットしたほうがいいよ。セットしようよ。
猪子 もう淹れちゃった!
高山 じゃあ1分ね。
久志 もう50秒くらいじゃない?
高山 じゃあ50秒でいっか。
小橋 じゃあそっちにおまかせして。
~ 50秒経過 ~
猪子 はい。(とお茶を配る)
高山 ありがとうございます。いい香り。
小橋 お茶を淹れてもらうって、すごい贅沢。
猪子 雑草とか、ヤギに食べてもらうような自然農法で作っていて。
小橋 この渋み、めっちゃ好み。
久志 おいしい。苦み強い。
高山 渋みと苦み。
猪子 ちょっと間違えただけかも(笑)。入れすぎただけかも。
小橋 いやいや、おいしい。
猪子 おいしい日本茶って、何度で何秒とかいろいろ難しくて。なかなかシンプルにできないから。だからティーバックで、沸かした100℃のお湯でって。75℃とか80℃とか無理じゃん。
高山 温度計持ってる人いないもんね。
猪子 そう。沸騰した温度で70秒だと誰でもできるから。お茶を作るなら、やっぱり世界でウケたいなって思っていて。ちゃんと本物を作るんだけど、ユーザーにはすごくわかりやすく。別にティーバックかどうかって本物かどうかと関係ないから。味だけだと、ぶっちゃけ言うと中国茶に負けてる気がしてるし。
高山 発酵の違い?
猪子 そうそう。中国茶は半分くらい発酵してて。香りを考えても、紅茶の方が香りがいい。(日本茶は)発酵してないから、なかなか世界のいいお茶として勝ちにくいかなって思って。一方で緑茶って、発酵してないから完全な野菜なのね。
久志 なるほどね!
猪子 それで、野菜としてはほうれん草とかより上のクラス。グラムあたりでいうと(栄養価が)トップオブトップなの。ただ緑黄色野菜の有効成分って水には溶けなくて、お茶としては摂取できないの。だから、わざとティーバックから粉が落ちるようにして、野菜を食べてるのと一緒みたいなフォーマットにしてる。
久志 すごいおもしろい!
猪子 そうすると、中国茶や紅茶よりおいしいですよじゃなくて。たとえば、ニューヨークとかロンドンとか行くとみんなケールとかコールドプレスで飲んでるわけよ。毎朝、ほぼ全員。だから、ケールのコールドプレスよりはおいしいし文化的でいいでしょっていう。ケールのコールドプレスはね、ぜんぜん飲むし好きなんだけど、食事とか台無しだからね。
高山 口の中ケールにしちゃいますもんね(笑)。
猪子 中国茶、紅茶よりいいですよって言わずに、コールドプレスの代わりにって。
久志 でも、すっごいおいしかった。びっくりした。
猪子 もちろん、中国茶、紅茶よりおいしいもの作ろうとしてるよ。でも真っ向勝負するわけじゃない。
アートの力で曖昧になる、現在・過去・未来の境界線
小橋 ずっと始まってからね、名前の紹介だけでね。お茶の話しかしてないから。お茶のスペシャリストが来てるみたい(笑)。知ってる人が多いと思いますけど、世界のいろんなところで評価されてる、スーパーアート集団の代表であるわけですよ。
高山 お茶の人みたいになってる(笑)。
小橋 さっきのテクノロジー……?
猪子 テクノロジスト集団!
小橋 テクノロジスト集団の代表でもあり、デジタルを使ったアートをやってるのに、めちゃくちゃアナログっていう。本質を知ってらっしゃる。本物を知ったからこそ、それをちゃんといろんな人に届けたい。それをどうしたらいいかっていうのを考えてらっしゃると思って。色んな作品を見させていただいてるけど、これこそほんと集大成ですごいなって思ったのが、佐賀の御船山でやっていた森の……何万平方メートル?
猪子 えっとね、50万平米くらいあるかな?
小橋 そこで集大成だなって勝手ながら思ったのが、自然林って何千年も時間をかけて。言ったら、過去のものがある。そこにフューチャーなものが合わさったことで、境界線が曖昧になるというか。過去と現在と未来が、ともに存在するというか。
高山 自分がどこにいるかわからない、迷い込んだみたいな?
小橋 いい意味で、自分の脳がバグるっていうか。猪子さんのほかの作品もそうなんですけど、普通アーティストって、アートを見せて完結しちゃうんだけど、人がいじることで変わってく。同じものは二度とない、みたいな。それがこないだ御船山の見たときも、やっぱり自然だから何回見ても同じ作品じゃない。
猪子 木々もどんどん変わっていくから。秋口なんで、葉っぱも減ったりするし。ちょっと簡単に見せるとですね……。「資生堂presents チームラボ かみさまがすまう森のアート展」っていうね、展覧会。
小橋 それね、僕行ったときにいいなって思ったのが、並んでたときに(子どもが)「ねえねえ、お母さん。この森神様いるの?」って。めっちゃ夢与えてるなあって。
猪子 ほんとに昔の人たちは、この森を神様がいる森だってしていて。森の真ん中に御船山っていうのがあるんだけど、これをご神体としてた時代もあったし。すごく長い歴史のなかで、人々がなんらかの自分を超越した物事に対して、意味を見出し続けてきたんだろうなって思って。そういうことをたぶんきっと、神様と言うんだと思って。これね、ほんとの岩なの。これも巨石。それからこれは、木が岩を割ってるんだよ。
小橋 これがさっきの一部を高い場所から見た風景。
久志 いいね。
高山 音もめっちゃいいですね。
猪子 これは森の中に人が歩いてて、人が木に近付くと色が変わっていく。色がどんどん変わっていってるのは、森の中を人が歩いてるから。
小橋 自然だけじゃなくて人間の力を施すことで、新たな発見があるというか。
猪子 そう。この展覧会やる前、一昨年かな。こっそり、ある山奥でね、誰も呼ばずにやりたくてやったやつがあるんだけど。ありえないくらい長い年月をかけて岩の形っていうのは作られてきて。100万年とか1000万年とかわかんないけど。なにかこう、自分を超越した存在を感じられるのかどうかわかんないけど、けっこうみんな泣いちゃったりして。悲しいとかじゃないんだけど。
人間ってそんなに賢くなくて、10年とか20年とか、それくらいのスパンの時間しか認知できないんじゃないかなって思っていて。たとえば、この空間にいたときに、すっごい長い時間でできた岩の形で、花が生まれ死んでっていうを繰り返してるのを見ているうちに、何かそういう長い年月の連続性の一部に自分があるんじゃないかみたいなことを、ほんのちょっとだけ感じさせられたらいいなって思っていて。そこまで言語化はされてないけれど。
ここにはちょっと人を呼べないから(笑)。死んじゃう、人来たら。だから、人をどうにか呼べる場所でそういうものをちょっとでも感じられるものを作れたらいいなって思って、御船山のができた。
猪子「アートって、美を拡張していく行為」
久志 ずっと前から聞きたかったのは、どのタイミングで「アート」ってピピピ!ってなったんだろうなって。なんでアートをやってんのかなって思って。
猪子 えー、うーん。すっごい無駄になること言っちゃうかもしれないんだけど。その前に一個だけ自慢していい?「デザインブーム」っていう世界最大のキュレーションの2017年1年間のトップアートインスタレーションの1位になったの。
小橋 これは絶対なるって。
猪子 実際来てたお客さんも、途中から半分以上外国の人が、わざわざ。さっきの答えとすると……。結構小さいころから「世界とは何か」とか「人間とは何か」とかそういうのにすごく……なんだろう、興味があって。すごく知りたかった。専門はサイエンスの物理とかの方だったんだけど。サイエンスも「世界とは何か」っていうアプローチ。サイエンスっていうのは「世界をよく見えるようにする」行為。アートは逆に「世界の見え方を変えてきた」行為だと思っていて。たとえばこれ。140年前くらいの「パリの通り、雨」っていう作品なんだけど、うちらが思ってる雨が描かれてない。
高山 地面が濡れてる?
猪子 地面が濡れてて、傘差してる。
高山 それが雨だもんね。
猪子 つまり、当時はこういうふうに雨が見えてたかもしれなくて。だってわけわかんない現象じゃん。肉体の目だけで見えない。これが雨だとしてた、見えてたとも言えて。ちょうど同じ時代に、浮世絵師が雨を「線」で描いたのね。同じ江戸中期なんだけど。
小橋 アート教室みたい!
久志 これ夜通し聞きたいね。
猪子 これが世界中で流行ったわけ。浮世絵師が雨を「線」で描く絵をカッコいいと思ったのか美しいと思ったのか。なんらかのインパクトがあって、人類にすごい影響を与えたわけ。ゴッホも浮世絵の雨の絵を模写していたんだよ。今はさ、子どもでも雨描けって言われたら線で描けるのにね。アーティストの提示の仕方によって、現代人の雨の見え方っていうのが決定されたんだと思う。
小橋 僕たちは雨は線だって思ってるけど、その認識がなければ……。
猪子 もしかしたら、ぼんやりした世界とか……。
久志 あれですよね。見えてるものはなんなのかって説明するのがサイエンス。見えてないものを新しい形で見せていくのがアートなんですよね。
猪子 見る価値がないとされていたものに価値を与えたり。人はあるとき花を「美しい」と思ったわけ。でも、それっていうのはよくわからないと思っていて。異性、生殖対象を「美しい」っていうのは説明ができるわけ。進化のプロセスでなぜできたかっていうのが。
でも、あるとき花を「美しい」としたことは、あまり説明ができない。少なくとも人間より前は、そういう無意味なものを「美しい」とはしなかったわけだよね。もっと言うと、その生殖対象に対する「美しい」という概念に、花を「美しい」っていう、同じものに入れちゃった。本来は違う言葉になるはずなのに、ぜんぜん関係ない概念を同じものに入れちゃったわけ。これは極めて奇跡的なことで。
アートって何かって言うと、太古の人類が異性に対して「美しい」以外に、花を「美しい」とはめて美を拡張したように、現代人が自ら花を作り、その花によって美を拡張する行為だと思っているのね。その拡張になんの意味があるかは、すぐにはわからないんだけれど。いい拡張をすることによってもしかしたら、30年後、50年後、当時の知識ではわからないような行為を人々はして、人類はより生き延びていくんだと思うんだよね。
小橋 拡張って、いまは花っていう文脈で言ったけど、いろんなところで起こってる。ハイブリッドって、賛否両論起こるわけじゃないですか、自然とデジタルって。でもそのことによって、拡張が起こる可能性がある。
猪子 今まで価値を感じなかったものの価値が高まることで、人々の行動が変わっていくんだと思う。
久志 めちゃくちゃおもしろい。女性を好きになるって本能的じゃないですか。でも、花とかアートを美しいって思うのって自覚的だと思うんですよ。ぼくたちがこういう世界に住みたいとか、これをよしとしたいって、本能ではなく無自覚ではなく、自覚的に発明していく瞬間だと思っていて。
今の話を聞いてて、人間って無自覚にやってしまうことってたくさんあるけど、そうじゃない自覚的な行為に美学や哲学って、やっぱあるんじゃないかなって思った。アートって、無自覚だと見えないものをいかに自覚的に「これが美しいものなんだ」って言っていくって行為なんだなって。
1977年生まれ。2001年東京大学計数工学科卒業時にチームラボ設立。チームラボは、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。アート、サイエンス、テクノロジー、クリエイティビティの境界を越えて、集団的創造をコンセプトに活動している。47万人が訪れた「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」、「ミラノ万博2015」日本館、ロンドン「Saatchi Gallery」、パリ「Maison & Objet」、5時間以上待ちとなった「DMM.プラネッツ Art by teamLab」、シリコンバレー、台湾、ロンドンでの個展、シンガポールで巨大な常設展など、アート展を国内外で開催。2018年夏に森ビル株式会社と共同でお台場・パレットタウンに「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: teamLab Borderless」を開業。
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