真の成功には「協力者と裏切り者」が必要。映画『ザ・ダンサー』が教えてくれること
「モダン・ダンスの祖」と呼ばれる女性がいる。19世紀末のパリ社交界でトップスターの座に上り詰めて、のちのダンス界に多くの影響をもたらしたロイ・フラーだ。鮮明な映像や写真がほとんど残っておらず、一度は歴史に埋もれた彼女だが、当時の芸術家(ロートレック、ロダン、コクトー)への影響の大きさが見直され、近年ふたたび注目を集めている。
この映画『ザ・ダンサー』の女性監督もまた、ロイのダンスに魅了された1人。だが、決して彼女を神格化するような“安っぽさ”はない。実話ベースのストーリーは、ステージ上での妖艶さとは、あまりにも対照的な嫉妬や葛藤に渦巻いていた。
遅咲きの29歳
チャンスは偶然に訪れた
ロイが注目されるようになったのは、まったくの偶然だった。
それは、皮肉にも台詞のない舞台劇に「催眠術にかかった女性」役として登場した際のこと。衣装の丈が長すぎて床につくのを防ぐために、手でスカートをたくし上げて回転した姿が、観客にダンスを踊っていると勘違いされ喝采を浴びたそうだ。
この日の舞台を境にして、衣装・照明・舞台装置まで含めたダンスのアイディアが湧くようになったらしい。両手に持ったバトンを巧みに操り、たっぷりしたシルクの衣装の布をはためかせるように踊る、ロイのトレードマークである「サーペンタイン・ダンス」は、こうして生まれた。
若さと才能、自分に無いものを持つ
もう1つの“才能”との葛藤の日々
ロイに近づき、誘惑して、やがて、最大のライバルとして立ちはだかるのは、イサドラ・ダンカン。こちらも実在したダンサーである。イサドラのダンスの最大の特徴は、彼女の美しい身体のラインを活かした、自然な動きだけで表現するスタイル。それは、肉体を酷使して3日おきにしか踊れなかったロイのダンスとは対照的だった。
若さや才能や優雅さなど、自分にはないものをイサドラに感じるロイ。やがて、羨望や嫉妬に悩まされることに。結局、ロイは裏切られる形で、イサドラとたもとを分かつことになるのだが、このライバル関係を振り切りながら成長する過程が描かれている。
痛みやダメージをかかえながら
夢を叶えたパリ・オペラ座公演
この物語で忘れてはならないのが、プロデューサー役として手腕を振るうガブリエル・ブロックという女性。ロイのよき理解者・助言者として登場するキーパーソンだ。事実、ロイの生涯につきそって二人三脚で苦楽を共にしたらしいが、彼女の協力なしにこれほどの成功はなかったのかも知れないのだ。
映画のクライマックスとなるのが、パリ・オペラ座。ロイが長年、見てきた夢を叶える大舞台だ。踊りに伴う肩の痛みや照明による眼へのダメージをかかえながらも、闘う格闘家をも思わせる全身全霊のパフォーマンスは圧巻の迫力。体力と精神力の限界まで挑戦する姿には、鬼気迫るものがある。
観終わった後、惜しみない拍手を送っている自分がいた。 ここ一番の人生をかけたダンスを、是非、劇場で胸に刻んでほしい。
『ザ・ダンサー』
2017年6月3日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマほか全国公開公式サイトは、コチラ。
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