彼らは今、VRを使って森の生き物たちと一体化している。

自宅にいながら世界のどこかを旅したり、物語の主人公になってゲームの中に登場する。現実ではない別の環境を人工的につくり出すその「没入感」において、ヴァーチャル・リアリティ(VR)はエンターテインメントのあり方を大きく変えた。

では、VRがすべて仮想空間を描き出しているかといえばそうではない。ここに紹介するのは、拡張現実(AR)にも近い概念で、目の前の現実と一体となりVR体験を楽しむプロジェクト。しかも、大自然のど真ん中で。

昆虫の目、動物の耳となる
自然界をVR体験

たとえば、トンボは人間が感じる速度よりも10倍近く速く感じ、12色の波長を感じ分けるほど色彩感覚に長け、視点も想像も人間のそれをはるかに超えているそうだ。

彼らの目から見たこの地球の姿は、いったいどう映っているのだろう…そんな昆虫や動物たちの目で見た“IF”の世界を具現化したプロジェクトがある。

「In the Eyes of the Animal」は、森に暮らす生き物たちの感覚を再現し、疑似体験するために360°VR動画を用いている。体験者たちは切り株に腰掛け、頭からすっぽりヘッドセットをかぶる。

それにしても…いったい、このかぶり物はナンダ!?

頭から自然と一体になる
ヘッドセットがすごい…

ありのままの自然界の体系に一歩でも近づくための工夫、そんな想いからVRヘッドセットをタマゴ型のヘルメット形状にし、さらには本物の「コケ」や「木の皮」などで前面部にデコレーションをほどこしているらしい。

と説明があっても、その異形は「何かのパフォーマンス?」と想像する方がたやすい。 

目の前に広がる
見えない“現実”を体験する

では、ヘッドセットの中で実際にどんな映像が映し出されていたのか。ビジュアルを切り取ってくるよりも、あの森の中に身を寄せているつもりになって、それを動画で楽しんでみませんか。

昆虫やケモノになったつもりで、どうぞ。

トンボの目線で、あるいは池の中のカエルの視点で森を見渡してみる。風が木立の間をすり抜け、昆虫たちが羽をこすり合わせる。そうした目の前の自然のなかにある音を集約し、オープンサウンドコントロールを介してリアルタイムで共有する。

きっと、そんな体験が森の中で静かに行われていたんだろうな。

たしかに目の前に広がる自然の森のはずなのに、それは仮想現実で人工的な現実感でしかない。なんてアイロニックな仕掛けなんだろう。目に見えている現実を、生き物の視点で見せてくれるという意味においては、このプロジェクトはAR(拡張現実)に近いのかもしれない。

そんなカテゴライズなんて、実際にはどっちでもいい話。テクノロジーを駆使してスーパーナチュラルな世界への造詣を深めるという、この逆説的なアプローチ自体が、僕たちの知るところのVRのエンターテインメント性と、まったく違っていておもしろい。

Licensed material used with permission by CORDELIA MACDONALD
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。