不朽の名作『AKIRA』オマージュへの思い
『AKIRA』は好き?
1982年に連載開始したSFマンガで、88年に劇場版が公開されたジャパニメーションを代表する作品。舞台は2019年の東京。つまり、来年の話。
というわけで、その話題を目にする機会が増えている。ついでに、劇場版公開から数えると、7月で30年が経つちょっとした節目でもある。
今、渋谷パルコの建て替えで使われている工事用の囲いには、そのコラージュが描かれプチ観光地化しているのはご存知の通り。スティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』には、物語の主要キャラクターである金田が乗っていた赤いバイクが登場するし、ウェス・アンダーソン監督は、5月公開予定の映画『犬ヶ島』の公開に向けて、『AKIRA』の原作者である大友 克洋さんとのコラボレーションイラストを公開した。大ファンだったという話題を知って、またしてもその影響力に驚いた。
作中で描かれる世界は、1988年7月に新型爆弾によって崩壊した東京の31年後。不良たちがバイク事故をきっかけに軍事機密に触れ、超能力を巡る抗争に巻き込まれていく。世代や趣向によって、見たことがないという人も当然ながらいるのだが、ファンにそのことを伝えると発狂ぎみになるくらい、好きな人にとっては残念だったりする。
そんなわけで、世界中のクリエイターによるオマージュはあとを絶たない。4月27日に公開された『AWAKEN AKIRA』も、そのひとつ。
『AWAKEN AKIRA』
Tribute by – ASH THORP & ZAOEYO
Score by - PILOTPRIEST
Character Modeler - RAF GRASSETTI
Photography - THE JOELSONS
Website by - OBLIO
このオマージュ作品は、カリフォルニアのクリエイティブカンパニー、ALT-Cを運営するAsh Thorpさんが、中国在住のビジュアルアーティスト、Zaoeyoさんと共同でつくったCGアニメーション。
Ashさんは、これまでに映画『トータルリコール』や『エンダーズゲーム』のグラフィックデザインを手掛け、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『ブレードランナー』のオマージュ作品も公開している。
彼らによると、はじめは3ヶ月ほどを予定していた製作期間が、結局1年がかりになった。使いたくとも入れられなかったシーンがたくさんあったと言っていた。
『AWAKEN AKIRA』の特設サイトでは、各シーンの制作に関するふたりのトークも聞ける。作中に登場するシーンとの比較などが詳しく説明されているのだが、とにかくその熱量に驚く。ふたりに話を聞いた。
──プロジェクトを始めたきっかけは?
Ash
ぼくがZaoeyoのファンだったんだ。とてつもなく才能がある人だと思って、なにか一緒にできないかと話しかけた。
Zaoeyo
Ashが、ぼくの作品を見てメールをくれたんだよね。それで、ビジュアルをつくるスタイルが一緒だったから、なにかコラボレートできないかと話しはじめた。いろいろなことを話していたのだけど、「アキラはどう?」って聞かれたときに、反射的に「イエス!」って答えた。それからプロジェクトが始まったんだ。
Ash
『AKIRA』を小さい頃に見てから、ずっと影響を受け続けてきた。もし彼と共同でなにかをつくれたら、敬意ある素晴らしいオマージュができると思ったんだよね。
Zaoeyo
ぼくはもともとAshの大ファンだったし、彼から多くのことを学んでいたから、一緒になにかやりたいとは思っていた。ふたりとも『AKIRA』のファンだったし、夢みたいな日々だったよ。
──キャラクターは描かなかったんですね。
Ash
象徴的な瞬間や、世界観をつくることに集中したんだ。最後のシーンにアキラのフラッシュ映像があるんだけど、キャラクターの描写に費やさなければならない時間と労力は凄いから。
Zaoeyo
キャラクターを描くことはぼくたちの得意分野ではないしね。それに、編集で入れられなかった場面もたくさんある。爆心地や、窓が割れていく場面、金田のバイクや、そのヘッドアップディスプレイ、コントロールパネル、走行シーン、銃……。単純に作るのがハードだったし、編集にも合わなかった。
Ash
そのとおり。これまでにないくらい手間暇かけたけど、合わないイメージは、どれだけ手間がかかったとしても切らなきゃいけないからね。
──『AKIRA』で一番好きなシーンは?
Zaoeyo
ぼくは、ネオンがきらめく東京の建物を描いた風景が大好きだね。もう呆然とするくらい美しい。人間の技術力が見える。窓とネオン光のコンビネーションやデザインのセンスはとても良くて、かなりグラフィカルでカラフル。
Ash
多すぎて困るけど、子供の頃から記憶に残っているのは、映画のはじめにあるクラウンとのバイクチェイスかな。混沌とした世界に一気にひきづりこまれるあの感覚はたまらない。
──『AKIRA』の世界と同じく、2020年に東京でオリンピックが開催されることについてはどうでしょう。
Zaoeyo
『AKIRA』は東京オリンピックを予言していたよね。個人的には、2020年はもっとロボティックでオートマティックになるんじゃないかと思ってたりする。
Ash
オリンピックのことはものすごく驚いたよ。首謀者は大友さんだね(笑)。会ったことはないけれど、ぼくたちは本当に彼の大ファンで、彼の代表作への敬意がどこかで伝わったらいいなと思ってる。
Zaoeyo
アクシデントで見てもらえたら嬉しいよね。
──最近のアニメでは何が好き?
Zaoeyo
クラシックなものが好きだから、ぼくは細田 守さんや宮崎 駿さんの作品かな。あと、去年は浦沢 直樹さんの『MONSTER』を見て、かなりハマった。
Ash
ぼくもクラシックな作品が好きだね。川尻 善昭さんとか。宮﨑 駿さんの『風の谷のナウシカ』は一番好き。
──ちなみに、東京に住んでみたいと思ったことはありますか。
Zaoeyo
ある! 今年行く予定があるから、東京に関するブログはたくさんチェックしてる。魅力的で夢みたいな場所だと思ってるよ! できることなら、住んでみたい。
Ash
ぼくが育ったハワイは日本の文化にとても影響を受けているし、妻は四国出身なんだ。だから、またすぐに日本へ行くと思うし、いつも行きたいと思ってる。訪れるたびに、家でカルチャーや人、アート、クラフツマンシップを全身で感じてる。大好きだよ。将来は、日本での暮らしが生活の大きな割合を占めることになるのは確実だ。
彼らがつくった特設サイトは、感謝のメッセージで締めくくられている。
私たちは、この名作に対する敬意を表したかっただけです。『AKIRA』と巡り合わせてくれたすべての人々や、とくにマスター大友自身の閃きの連続に、感謝しています。
たしかに『AKIRA』は一度見たら忘れられない。とくに、劇場版の製作期間と製作費は、聞くだけでため息が出るような規模で、映像や音楽もスゴイ。
テクノロジーや未来の予想として今と比較して見てもおもしろいけれど、それだけじゃなくて、カオスな2019年のネオ東京で見る、登場人物たちの生き様とか人間くささが胸にジーンときたりする。リアリティのあるグロいシーンもあって世界観だけでも強烈なのに、キャラクターの一言一句、一挙手一投足の情報量はさらに圧倒的なのだ。だからこそ、一度はオリジナルを見てほしいと思う。大きくて分厚いマンガ版も、繊細な描写に感動する。
アメリカと中国でそれぞれ活動する似た趣向を持つふたりが、連絡を取り合って1年がかりのオマージュ作品を合作したことも、じんわりと伝わってくるなにかがある。
小さな頃から受けてきた文化的な影響に対して敬意を払いたいという、かたちがないとも言える一念を、こうしてハッキリと行動で示していることにハッとさせられてしまう。