ついに仏スーパー「食料品廃棄」を禁ずる法律がスタートした
法案は「全会一致」で可決。2016年2月5日、フランスは世界で初めてスーパーマーケットに対し、売れ残り食品の廃棄を法的に禁ずる国となった。
売れ残りの食品は
慈善事業団体へ寄付
今月5日から、廃棄されるはずだった食品のうち、品質に問題のないものは「フードバンク」を通じて必要としている人たちに配られることとなる。また、食用に適さなくなったものも、家畜の餌や堆肥としての転用が義務付けられている。
この法案可決の裏に、フランスのみならずEU全体でのグローバルスタンダードを目指し、動いた人物がいた。県議会議員アラシュ・デランバーシュ(Arash Derambarsh)氏だ。
法案成立の立役者
アラシュ・デランバーシュ
地方議員とは?
パリの西部の町、クルーブヴォアの県議会議員アラシュ・デランバーシュ(Arash Derambarsh)氏。イラン人移民の子どもとして生まれた彼には、法学部に通う学生時代、空腹をなかなか満たせなかった時期がある。月400ユーロ(約5万2,000円)の家賃を支払うと、手元に残る生活費はわずかばかり。毎晩、パスタかジャガイモで飢えをしのいでいたと振り返る。
その彼がスーパーの食品廃棄を目の当たりにし「怒り」に駆られた。
2015年5月に同議員を取材したAFPによると、フランスには、食品メーカーから市場に流通できなくなった食品の寄付を受け、生活困窮者らに配給する「フードバンク」が存在する。しかし、資格条件を満たしていなかったり、受け取る側に羞恥心が働くため、必要としている人に十分に届いていないのが現実だそう。
さらには、食品ロスを出してしまうスーパーマーケット側にも、廃棄食品を提供したくない事情があるようだ。
「The Guardian」は、こう伝えている。販売店側は、売れ残り商品をゴミ捨て場からあさられ散らかされたくない。また、廃棄処分した食品を食べた人が食中毒を起こして訴えられては、販売店としての信用を失うことになる。
ならばと、まだ食べられたはずの食品をわざと腐らせては廃棄を実施してきた。
必要としている人がいるのに多くの人に届かない実態。こうした状況をデランバーシュ議員は、「スキャンダラスで不条理」と非難。ついには、自ら立ち上がる意志を固めた。
フランス全土から届いた
21万人分の署名
スーパーマーケットの食品廃棄を許してはいけない…。デランバーシュ議員は「Change.org」を利用し、ソーシャル上で署名活動で開始。食品廃棄禁止を呼びかけた。わずか4ヶ月間だったが、フランス国内だけで21万件以上の署名が集まった。彼はこの市井の声を嘆願書とともに議会に提出。今回の「賞味期限切れ食品の廃棄を禁ずる」法案成立の原動力となったことは言うまでもない。
フランスからEU全土へ
「捨てさせない」を共通認識に
「捨てさせない」を共通認識に
とはいえ、挑戦はまだ始まったばかりだ。デランバーシュ議員は、自国で成就したこの廃棄処分ルールを、欧州諸国のグローバルスタンダードにすべく活動を続けている。現に前述のChange.orgでは、すでに74万件近い署名を集め「欧州委員会」の説得に動き出した。
こうなると、各国もフランス議会が下した採決に注目せざるを得ないだろう。「REUTERS」によると、大手スーパー「Tesco」は、すでにイギリスにあるチェーン店のうち10店舗で、廃棄となった食品を保護施設や孤児院などへ寄付し始めているそうだ。
食品廃棄は環境にも影響
世界食糧機構(FAO)によると、毎年、世界全体の食料生産量のおよそ1/3にあたる、約13億トンが廃棄されている。食料廃棄はまた、環境へも悪影響を及ぼすと言われている。
捨てない努力が環境保全の一役にもなる。2015年12月のCOP21の場で、デランバーシュ議員が、この食品廃棄問題を議題に挙げたのも、こうした背景があるからではないだろうか?