ホームレスがホームレスのために仕立てる「3WAY」コート
かつて、自動車産業の中心地として栄えたミシガン州デトロイトは、2013年7月、負債総額180億ドル(当時のレートで約1兆8,000億円)を超え、財政破綻した。米自動車産業の凋落は多くの失業者を生み、途方にくれた人々の多くが路上生活を余儀なくされた。
マイナス10℃以下になるデトロイトの冬を乗り切るため、あるコートがホームレスたちにとって欠かせない存在になっている。
3WAYの多機能コートは
路上での生活に焦点を当てたもの
このコート、後ろ身頃が二重構造になっていて、チャックを開いて広げると足元まで伸びる寝袋として使用することができるすぐれもの。
コートの両腕に付いたストラップをパチンと閉じれば枕が完成する。さらに使っていないときはクルクルと丸めてしまえば、ショルダーバッグに早変わりする3WAY構造だ。
だが、多機能だけがEMPWRコートのウリではない。ナイロンバッグの定番ともいえる、優れた耐久性を有するコーデュラナイロンを使用し、長持ちするようタフさにとにかくこだわったつくりだとか。おまけに耐水性能も高いらしい。
なぜ、そこまで丈夫さにこだわるのか。理由はこのコートに袖を通す人たちにある。主なユーザーは路上で生活するホームレスたちだから。
ホームレスが仕立て
ホームレスが着る。
雇用を生み出す循環型ビジネス
ホームレスの子どもたちが成長しても、ホームレス生活から脱却できない。この悪循環を断ち切るためNPO活動団体「The Empowerment Plan」は、路上で生活するひとり親を対象に、職業訓練とフルタイム雇用を支援し続けている。このEMPWRコートは、そんな彼らの手によって生み出されたもの。
コートの生地はアパレルブランド「Carhartt」より使用されずに余ったマテリアルを譲り受けたもの。同じように、自動車製造に使用された断熱材は「GM」から、他のパーツも、その大半が大手企業などからの寄付でまかなわれている。
「個人、企業、財団、地域コミュニティの協力なくして、すべてを達成することなんてできません」、とデトロイトで大学教授として勤めてきた同団体CEOのVeronika Scottのコメントをdesignbloomの記事は紹介している。
地域の協力を得てコートをつくるのがホームレスなら、それを着るのもホームレスだ。厳しい冬場の路上を知る彼らだからこそ、コートの断熱性やタフさにこだわるのかもしれない。
路上生活からの脱却と
デトロイト復興ののろし
プロジェクトがスタートした2012年以来、34人が路上生活から更生し子どもたちとともに暮らす住宅を確保するまでに。また、彼らによってこれまでに15,000着以上のコートがホームレスへと渡った。
デトロイト市の復興を告げるように、地元の人と企業が協力し合い生まれたEMPWRコートが、今ではアメリカ40都市、カナダ7つの都市に拡散しているそうだ。