「命を懸ける価値がある」。世界最難関の岩壁を制した最強の登山家たち。

山に詳しいわけではないけれど、感動した!と話題になった山岳ヒューマン・ドキュメンタリー映画『MERU/メルー』。ここ日本でも、大晦日から全国ロードショーが始まります。

淡々と登山の様子が記録されているわけではなく、ドキュメンタリーとは思えないほどドラマティック。まずは、スリリングな予告編を。また、未公開の映像も公開されているので、合わせてチェックしてみましょう。

この作品は、“エベレスト登頂とは別次元の難しさ”で知られる、ヒマラヤ山脈メルー中央峰の岩壁「シャークスフィン」への挑戦を撮影したもの。前人未踏の世界最難関とも、残された最後の大物とも呼ばれていました。この映像からは、わかりづらくもある登山の過酷さが、細かいところまでビシビシ伝わってきます。

メルーはエベレストと違ってシェルパ(案内人・サポーター)の力を借りられません。足だけで登れる場所はほとんどなし。アイスクライミングやロッククライミングの高い技術を持っているだけでも、高度に強いだけでもダメ。

そんな場所を荷物を背負って登りながら、撮影までしていたんです。過酷な状況下で笑い合う彼らの様子や信頼関係、友情、決断。どれもエクストリームすぎて目眩がしそう!

「死ぬときは一緒さ」

挑戦したのは、リーダーであるコンラッド・アンカーのほか、撮影を手分けして担当したジミー・チンとレナン・オズタークの3名。全員世界的に有名なトップクライマーです。

ほかのスポーツや仕事でも、決断や思考プロセスには共通するところがありそうなもの。ですが、登山家はその一つひとつが直接命に関わってきます。それなのに、信じられない状況でもまだ登るのをやめないのが彼ら。生死を懸けた決断の数々はもちろんですが、彼らの帰りを待つ家族や恋人にも焦点が当たっており、感情移入してしまうせいで余計にハラハラしてしまうのです。

なぜ、そうまでして山に登るのか?

知れば知るほど理解できなくなるというのもホンネかもしれません。ここは、本人に直接話を聞いてみることに。

ナショナルジオグラフィックの山岳カメラマン
映画『MERU/メルー』の監督

ジミー・チン

「登山家は、登山という名の宗教で修行している僧侶のようなものなんです。私の場合は子どものときからスキーが大好きで、たまたま自分がハッピーでいるために必要なことが山でした。当時からふつうの人生は送れないと思っていましたよ」。

ーー登山家になるきっかけになったような、人との出会いや出来事はあったのでしょうか。

「とくに明確な何かがあったわけではなく、いろいろなことが複雑に関係しています。大学を卒業したあとは、車に寝泊まりしながら登山する生活を始めて、7年くらい続けていました。バンよりだいぶ狭くて、必要最小限の生活。よくある話です」。

「お金がなかったから、ベニヤ板の上で寝るか、外で野宿するか。洞窟があったらそこに入ったり、林の中から夜空の星を眺めたり。周りにいたみんながそうで、凄く理解し合える仲間は多かったと思います」。

ーー当時から今までを振り返って、大切にしている考え方があれば教えてください。

「…人生は苛酷です。重要なものは簡単には手に入らないし、到達できません。山も同じ。だから、その過程を楽しむことが大切だと思っています。相対的なものをいっぺんに見るのは不可能で、一歩ずつ進まなきゃいけませんが、軽視してもいけない。何に重きを置くかと言えば、小さなステップを重ねていくことでしょうね」。

ーー登山に写真やお守りを持っていって、家族のことを思い浮かべることはあるでしょうか。

「常に、頭の中ではリスクの計算をしています。こうしたらこうなるだろう、という結果とその確率のこと。テントを設営して寝る前の数時間はゆっくりできるけれど…、やっぱり天候の変化や明日の状況を心配しています。山のことは頭から離れません」。

「家族の写真については、ベースキャンプまでは持っていけます。が、そのあとは軽量化のために登山と撮影に必要なもの以外すべてを置いていかなければなりません。メルーのときは、3人で90kgの荷物を持っていきました。そのうちカメラだけで7kgあったんですよ」。

ーー登山と撮影の両立は難しいのでは?

「そうですね。まずは登山ありきで、撮影は二の次です。撮れる時に撮って、チームを待たせないこと。そして、絶対にカメラを落とさないことがルール。ただ、メモリーカードの交換には一番神経を使いましたよ」。

ーーメルーも含めて、今までの写真でとくに心に残っているものはあれば教えてください。

「うーん。1枚だけ?強いて言うならエベレストかな。とても気に入っています」。

ーー山頂からスキーで滑降されたときでしょうか。雪崩に飲み込まれながらも奇跡的に無傷で生還した話には驚きました。どんな体験だったのでしょう。

「事故を起こしたときのような感じ。雪ってすっごく重たくて、堅いんですよ!100キロくらいのすっごいスピードで流されながら、何十キロもの重さが体の上に覆いかぶさる」。

「机や本がガサーっと落ちてきたみたいで、全然ふわふわしてない。ものすごく恐かったですね。下まで流された後に、手足がちゃんとくっついていることに驚きました」。 

ーーメルーを登頂したときの歓喜の叫び声が印象的でした。かなり興奮していたのでは?

「じつはあの時、ほっとしたんです。山頂だと思っていた頂きが、実は本当の山頂の手前にある頂きだったことを意味する、フォルス・サミットという言葉があります。果てしなく高い壁に何度も挑戦していたから、登りきった時もしかしたら本当の頂上はまだ先にあるんじゃないかって、あたりをキョロキョロ見回していましたね」

ーー最後に、いつもどんなトレーニングをしているのか教えてください。

「私の場合は、とにかく山に登るだけ。現場でクライミングに集中することが一番大切だと思っています。ジムと違って、その場の環境や天候の変化を見て、リスクを計算できること、早く動き、早くギアを着脱できること、そういうことを考えずにできるまで体に染み込ませるんです」。

「ここに住んでいたんですよ!」。
と嬉しそうにヨセミテの写真を指差すジミーさん。

話してみると笑顔も多く、とても無邪気なジミー・チン監督。しかし、ときおり見せる表情や振る舞いからは、厳しさや冷静さも伝わってきました。

登山家がなぜ山にのぼるのか。少なくとも彼にとっては、ライフワークというのが自然なのかもしれません。

映画『MERU/メルー』は、12月31日(土)大晦日より全国ロードショー開始。迫力ある映像は、ぜひ劇場で。彼が大好きなキャンプめしを食べている様子や、登頂の瞬間を見ると、まるで自分が山を登ったかのような感覚にも。年末年始に、この感動をぜひ!

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