「灰」でイラストを描くのは、歴史的建造物を蘇らせるため
アート好きな人には怒られてしまいそうだが、普段から芸術に触れる機会が少ないと、たまに美術館へ行ってもなかなか良さを感じられなかったりする。だけど深い意味が込められていると分かった途端、私のような素人でもグッときてしまうものだ。
ロンドンをベースにしたイラストレーター、Sharon Liuさんの作品もそう。彼女が1本1本丁寧に線を引いて描いた絵の裏側にも、あるストーリーが隠されている。
大切な建物が
火事で焼けてしまった…
実は、このイラストに使われているのは「灰」。2014年の火災により焼けてしまったスコットランドの美術大学の校舎の一部だ。世界的建築家チャールズ・レニー・マッキントッシュ設計の歴史的建造物だったのだという。
火災を受け、「Ash to Art」という名のプロジェクトが立ち上がった。トップアーティストを含む25人が選ばれ、大学から焼け跡に残った灰の塊が送られたのだ。それを元に作った彼らの作品はオークションで売られ、集まった資金はなんと706,438ポンド(約9,900万円)。これは再建のための費用にあてられる。
先のSharon Liuさんのイラストは、建物が火事になるところから、アーティストが作品をつくりオークションで売られるところまで、すべてを灰で表現している。そしてプロジェクトを広めるため、絵をつなぎ合わせてアニメーションに仕上げたのだった。
作品づくりも再建も
「ゼロから」
作品をつくる過程で苦労した点をLiuさんに聞いてみた。
「木炭のピースは、黒色や茶色に近いものなど色がまばらで、手触りもそれぞれ違った。柔らかいものもあったから、細かい線を書かなければいけない時は、ピンセットを使ったわ」
用意されたのはあくまで焼けてしまった本物の木材。だからこそまずは木炭を砕いたりして、「インク」を確保するところから始まった。与えられた量では足りなかったため、何度も大学から送ってもらい完成させたとのこと。Liuさんは、ネガティブをポジティブに変えるという点からプロジェクトを気に入り、選ばれて光栄だったと誇りに思っているそう。
資金はできる限り募りたいとのこと。いつ再建されるかは未定だが、新しい建物ができた時には、いつの日か訪れてみたい。