食パンとロールパンだけで行列をつくる。老舗ベーカリー「ペリカン」が教えてくれること。

「もし、自分に10の力があるのなら、それで100のものをつくるよりも、1つのものをつくる」

シンプルで潔ぎよい。竹を割ったような哲学だ。それを有言実行するのは、東京・浅草にある老舗パン屋「ペリカン」だ。食パンとロールパン。たった2種類だけを作り続ける経営方針は、ずっと変わらない。それでも、焼きあがったパンを求めて多くの人たちが列をなす。

『74歳のペリカンはパンを売る。』は、ものづくりに共通する、普遍的なことや大切にすべき「何か」が、たっぷりとつまったドキュメンタリー映画だ。

多様性よりも、希少性

現代は、多様性のあることが求められる。商売であれば、様々な種類のモノを幅広く取り扱う方が自然の流れのようだ。しかし、ペリカンは、その真逆の発想であえて商品数を絞り、その希少性を強みにした。結果、東京に星の数ほどあるパン店との差別化に成功したのだ。

浅草という土地柄なのか、お客さんは2世代、3世代と続くパターンが多いようだ。多くのファンを獲得してきた背景には、どんなに時代が変わっても変わらない味にある。飽きのこないスタンダードなパンは、「白いごはんのような存在」というコメントにペリカンの底力を見た気がした。

人から人へ伝わる哲学 

本作品に登場するペリカンの店長は、四代目・渡辺睦さん。1987年生まれの20代の若者が、74年も続く老舗パン屋を切り盛りしている。このギャップに惹かれたプロデューサーと監督がペリカンへ打診。この映画が生まれるきっかけとなった。

石原弘之プロデューサーは、「ペリカンで売られているのものは、単純にパンではなく、ペリカンというお店の考え方なのではないかと思う」と。一方、内田俊太郎監督は、「普段、我々が口にしているかをほとんど知らない。でも、最近、思うのはすべてのものは人が作っているということ」、とコメントを残している。

毎朝4時にはじまる真摯なパン作り、お客さんの期待を裏切らない味、職人たちのプライドなどに触発されて、二人とも映画撮影中から、大のペリカンファンとなったようだ。本作には多くのペリカンファンが登場するのだが、特に印象深かったのは、パン作りの哲学がきちんと伝わっていることだった。

「極める」という信念

この映画を観ていて、とにかく心を惹かれたのは、ベテランのパン職人名木広行さんの存在だった。

40年以上も続けてきた職人でさえ「パン作りは、一生、勉強」なのだという。その姿勢は、2種類に絞ったペリカンの経営姿勢に重なって見えた。どちらにも共通しているのは「極める」という信念だろう。

どんな仕事においても、己の信念は持たなければならないのではないだろうか。そして、いつまでも仕事への情熱を絶やさないことが、大切なのだと感じた。真摯な態度とひたむきさこそが、老舗と呼ばれる由縁なのだろう。日本人が作る日本人のためのパン。その味を、ぜひ、スクリーンで噛み締めて欲しい。

『74歳のペリカンはパンを売る。』
2017年10月7日より、渋谷ユーロスペース他にて全国順次公開。公式サイトはコチラ

©ポルトレ

Licensed material used with permission by 74歳のペリカンはパンを売る。
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。