アフガン難民の少女ラッパーが「夢の力の凄さ」に気づかせてくれた
主人公は、アフガニスタンから家族と共にイランへ逃れてきた少女ソニータ。
彼女の夢はラッパーになることだ。しかし、難民であるが故にパスポートも滞在許可証もない。テヘラン郊外の貧困地域に不法滞在しているが、退去通知を受け、生きていくことさえままならない状況だ。
アフガニスタンには、親が決めた相手と結婚するという古くからの習わしがあるらしい。いわゆる強制結婚。その裏には、多額の結納金と少女を引き換えるという事実がある。それだけではない。イランでは女性が公の場で歌うことさえ禁じられているというのだ。
すべてが逆風であるのに、16歳の少女は自分を信じて闘い続ける。悲しみや怒りをラップに込めて歌うことで、自らの運命を切り拓いていく。映画『ソニータ』は「夢の力の凄さ」に改めて気づかせてくれるドキュメンタリーだ。
衝撃的な
アンチ強制結婚のラップソング
© Rokhsareh Ghaem Maghami
ソニータの運命を変えたのは、1本のビデオクリップ。本作のロクサレ・ガエム・マガミ監督と共にストーリーやイメージを考えたとのこと。ラップの歌詞は、強制結婚に対する彼女自身の叫び。アフガニスタンの少女の途方もなく深い悲しみと怒りがリアルに伝わってくる仕上がりとなっている。
このビデオクリップをYouTubeにアップロードしたところ、彼女の人生は好転していくことになる。その衝撃的な動画を観てほしい。
『brides for sale』by Sonita Alizadeh
声をひそめて話させて 少女が売られる話だから
批判すれば法典に背く 女性は沈黙を強いられる
沈黙の代わりに私は叫ぶ 心の傷をさらけ出す
幼くして値札をつけられ 疲弊した体で私は叫ぶ
15歳の子どもなのに 男たちが求婚しにやってくる
この慣習には戸惑うばかり 親が娘を売るなんて
父親の心配はお金のこと 金額しだいで私を嫁がせる
与えられた食事や服は 無条件の親の愛だと思ってた
見返りが必要な愛ならすべて拒否したのに
少女たちは閉じ込められ まるで食用に育てられた羊
“売り頃だ”と言われるけれど 目も耳もある人間なの
抗議する羊は見たことある? 涙を流す羊を見たことある?
どうか遠くにやらないで 私なら家族を売りはしない
でも命を授かった恩に どうやって報いればいいの?もう黙っていられない その手を離して窒息しそう
話しかけてもらえずに 生きてる実感もなかった
死んでいるのと同じなら なぜムチの痛みを感じるの?
口を閉ざされた少女は どう人間だと証明する?
どこかへ逃げるか自殺する? そんな選択はバカげてる
たとえ拷問を受けても あなたを困らせはしない
私を売ってあなたが幸せなら “幸せです”とウソをつく
あなたの苦痛と引き換えに 私の笑顔を差し出そう
でもコーランを開いてみて “少女は売り物”と書いてない
どうか私に構わないで もう化粧はうんざり
化粧でも隠せない顔の傷 こんな扱いは敵でもしない
愛のない人に抱かれたら 誰でも心が傷つくはず
私は歌い続けられない あなたの幸せを願うから
だけど私をよく見て この顔を忘れないで
もうここを離れるけど あなたの面倒は誰が見る?
残していくあなたへ 私の人形を置いていく
あの子を泣かせないで 私のようにあの子を売らないで
形見として置かせてほしい
ソニータの姿に
自分自身を重ねる
それにしても16歳の少女にこんなにも心を動かされるのは、何故だろう。個人的な見解かもしれないが、大きな理由のひとつとしては、ソニータが奮闘する姿に自分自身を重ねているからではないか、と感じた。
そこには、もし、僕たちがソニータと同じ立場だったなら、果たしてこれほどまでに人生にチャレンジするか、という自分自身への問いも含まれている気もする。
「どんな境遇にいても決して夢を諦めない」「自分の人生を決めるのは自分自身だ」そんな骨太なメッセージが全編を通して貫かれている本作品。ぜひ、彼女の「夢の力の凄さ」と中東のフィメールラッパー誕生の瞬間をスクリーンで目撃してほしい。
最後にもうひとつ。映画『ソニータ』は、日本での劇場公開をバックアップするためにクラウドファウンディングを実地している。一人でも多くの人がこの映画を観ることができるよう、ここに告知しておく。
『ソニータ』
2017年10月21日(土)より、アップリンク渋谷ほかにてロードショー。公式サイトはコチラ。
© Behrouz Badrouj