ハイネケンが作る「退屈な携帯」が深すぎた
誰とでも/どんな情報とも繋がれるスマホは、「Interesting」=面白さの詰まったエンターテインメントの宝庫。
多くの人が中毒を患っているほどに浸透し、必需品としてより便利に、面白く進化を続けてきた一方で、すでに行き詰まった感を醸しつつもある。そこで、一つ提案が。
今、我々が携帯に求めるべきは“退屈さ”なのではないか──。
問いかけたのは、あのハイネケン。人気ファッションブランドの「Bodega」とタッグを組み、フィンランドのスマホメーカー「HMD(Nokia)」との共同開発によって、次世代の携帯電話を発表したのだ。
その名も、「The Boring Phone」。
ガラケー型の本体はクリア素材で、ニュートロなバイブス。コンパクトなサイズ感にもなんだか愛着が湧くし、Y2K好きなZ世代にもウケそうだ。
しかし、The Boring Phoneにおいて注目すべきは、デザインよりもそのスペックにある。
高画質なカメラにマップ、中毒性の高いゲームやSNS……我々が普段スマホで使っている機能が一切ない。
搭載されているのは、通話、SMS、メール、低画質のカメラ、そして一種類のゲームのみ。
写真を撮っても画質はガビガビで、暗いところではほとんど何も映らない。メールはあるけど大した処理能力もなく、私用でやれることなんて限られている。唯一のエンタメはレトロゲームの「Snake」のみだが、一部の狂信的ファン以外にとっては、さほど面白いものではないだろう。
もちろんアプリストアもないので、新たにSNSをダウンロードする、なんてこともできない。
名前の通り「退屈な携帯」なのである。
なぜ、ハイネケンは“退屈な”携帯をつくったのか…?
お察しの通り、この携帯のコンセプトはデジタルデトックスであるが、なぜIT業界と関係の無さそうなビールメーカーがこんなものを手がけたのか。
まずは、こちらの動画をご覧あれ。
“Less on your phone, more to social life”
ハイネケンが行った調査によると、アメリカとイギリスのZillenials (Z世代とミレニアム世代の中間世代)のうち、約90%が「友人や家族と会話している時もスマホを見てしまう」と回答。67%が「他人と一緒にいるときにもSNSをチェックしている」という。
確かに、コミュニケーションの場であるお酒の席でも、グループ全員がスマホを見ている……なんて光景も珍しくなくなっている。
長年お酒を通じて人同士の交流を促してきたハイネケンは、この事態を憂慮したわけだ。打開策として生まれたのが、スクリーンタイムを徹底的に減らせるこの携帯だった。
絶え間なく流れてくる楽しいコンテンツについつい夢中になってしまうが、画面から顔を上げて見える目の前の人や「今ここ」にしかない瞬間は、検索をかけて出会えるものではない。
スマホはエンターテインメントの宝庫だが、リアルな体験や人とのつながりこそ、驚きと発見に満ちていて、私たちの人生をずっと豊かにしてくれるのではないだろうか。
もしもデザインが気に入ったのなら、手にしてみるのもアリ。ただし、「The Boring Phone」はレトロブームに乗った嗜好品というよりは、本当に不便な“当時の代物”だ。
レトロ好きを自称するなら、これをファッションとして持ち歩くだけではなく、本気で時代に逆行してテクノロジーの恩恵を手放すべきだろう。(SNSにアップすることはできないが)最高にクールだし、少なくとも今よりはマシだった当時の健康状態も手に入るはず。
ちなみに、こちらは5000台の限定生産で、購入はできない。
慈善事業に近い取り組みとして、開発陣は様々なイベントを通じてこの端末を「世界中の人々に配布」する予定とのこと。
真の楽しみ・ソーシャルライフを送るための、退屈な携帯。公式サイトからメールマガジンに登録すれば、続報を受け取れるようだ。