かけがえのない親子の時間を取り戻す、父と息子の「車中デュエット」

狭い車の中で熱唱する、このイギリス人親子。カーステレオのボリュームをひねり、大音量で歌い続けるのには、ある訳がありました。この車中カラオケは、「父の記憶」を呼び戻すための大切な儀式。心の芯がとっても温まるストーリーです。

どれほどアルツハイマーが
記憶を奪い去っても、
「歌」だけは忘れない

元クラブシンガーのテッドさん(79歳)は、3年前にアルツハイマー型認知症と診断され、息子サイモンさんの介護を受けながら生活しています。この病気特有の攻撃的な言動や、短期的な記憶の欠落によるいらだち、父と息子の日常。

けれどある瞬間だけ、父のこうした言動が止むことに気づいたサイモンさん。それは、テッドさんの長い人生から切っても切れない縁で結ばれた「歌」を歌う時間

音楽がかかっている時だけは、表情に生気が戻り、まるで記憶を呼び覚ますような父の姿を映像に収め、息子はそれをFacebookに共有することを決意しました。

The Songaminute Man」とは、テッドさんのシンガー時代の愛称。“彼の知らない歌はない”と周囲に言わせるほど、どんな歌でも記憶していたんだとか。

「ここ数年で、父は大部分の記憶を失ってしまいました。息子である私が誰かすら分からない時だってあります。それでも、こうやって車の中で歌っている時だけは、父の想い出が甦り、私たち親子はかけがえのない時間を共有することができるのです」。

この病気が、テッドさんからどれだけ記憶を奪い去っていこうとも、人生に深く根を張った「歌」だけは、決して失われることはなかった。

歌い手のステージは、スポットライトを浴び続けた壇上から狭い車の助手席へと変わったかもしれない。生バンドはカーステレオに変わったかもしれない。それでも、もしかしたらテッドさんの歌声は往年のそれと遜色ないのでは?そう感じずにはいられない美声は、ぜひ動画でご堪能を。

世界各国から集まった
10万ポンドを
英アルツハイマー協会に寄付

テッドさんが認知症と診断されたのが2013年。徐々に身の回りのことができなくなっていく父の姿に、サイモンさんは「アルツハイマー協会」の相談窓口へ、ことあるごとに電話をし、相談に乗ってもらったそうです。

見知らぬ人とはいえ、専門家たちのアドバイスにどれだけ励まされたことか」。せめてもの恩返しと、サイモンさんは同じ病気に苦しみともに闘っている家族たちの支援となるよう、寄付を呼びかけるチャリティ「The Songaminute Man」を始めました。

目標額は1,000ポンド(約13万円)。ところが、彼の手元に集まったのは、わずか3ヶ月余りの間になんとその100倍。サイモンさんは、集まった10万ポンド(約1,340万円)を協会に寄付。

「親子が多大な寄付をしてくれたことだけでなく、歌を歌うこと、聞くことが認知症患者たちにとって、プラスに影響する事実を世に広めてくれたことにも感謝しています」。

同協会長サマンサ・イーブス氏は、感謝の言葉とともに巨額の寄付を集めるきっかけとなったデュエット動画を添えました。息の合った親子のデュエットに、心の奥がきっと温かくなるはずです。

Licensed material used with permission by The Songaminute Man
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