蔵のまち?ぶどうのまち?絶景のまち?「それだけじゃない!須坂にしかない魅力がある」

1718。

これは日本の市町村の数。それぞれ風土も、名物も、そこに暮らす人の気質みたいなものも違う。誰かが「うちの地元ではね〜」と話す時、1718通りもの個性があるということになる。否、同じ市町村でも、歴史的背景が違う地域なんかもあるので、実際はもっとたくさんの個性があるはずだ。

さて、ここでの主役は、これまでも「発酵の街」「フルーツの街としてTABI LABOで紹介してきた長野県須坂市。このまちを舞台に、それぞれのフィールドで活躍している3人にフォーカスし、彼らが語る須坂をちょっと長めの記事と10分間の動画にまとめてみた(動画は記事末尾で!)。

1718分の1。

日本中探してもここにしかない。須坂の魅力とは?

01.
「観光だけでなく、生活者の視点からもこのまちをよくしていきたい。だから“景観保全”じゃなくて“景観づくり”なんですよ」

須坂市景観づくりの会 理事 小林義則さん

須坂で一番オススメの景観は?

「須坂市景観づくりの会」を主催し、まちの観光ガイドでもある小林さんに伺ったところ、紹介してくれたのがコチラの建物だ。

創業300年という山下薬局は江戸後期に建築された商店。現在も営業している。そして、隣にも明治期の建物が並ぶ。この一角を眺めていると、ちょっとしたタイムスリップを味わえる。

「あくまで“今”のオススメですよ。その時々で、私のオススメは変わってくるので(笑)。というのも、須坂のまちというのは、江戸時代は善光寺へとつながる宿場町、明治〜大正時代は製糸業で栄えた歴史があり、江戸後期〜昭和初期の建物がまちの中に点在しているんですね。裕福な方も多かったんでしょう。山下薬局だけでなく、一軒一軒が現在では考えられないような労力をかけて作られています。そして、そんな歴史ある商家や蔵をまちの人たちが長い間守り、暮らし続けている。そこがすごいんですよ」

その言葉の通り、須坂を歩くと、至るところで時代劇に登場するような建物を目にすることができる。また、その間を縫うように走る小路がたくさんあることにも気づくはずだ。

小林さんは「須坂景観づくりの会」で、そんな小路に面した住宅のブロック塀を板張りにする活動をおこなっている。

「ブロック塀もいいですが、板張りにすることで小路に風情がうまれていいでしょう?」

とはいえ、壁はすべて個人宅のもの。一軒ずつまわり、協力をお願いすることで実現している。

「そもそも私たちは、地元の人に郷土愛を持ってもらうことを目的にしています。だから、板を張るのはすべて業者にやってもらうのではなく、色を塗るのは地元の小学生たちにやってもらっています。子どもたちが、いつか大人になった時にその壁をみて“これは私が塗った場所だ”と、愛情を持ってもらえるとうれしいですね」

そう、須坂景観づくりの会は、地元愛を育んでいくことに主眼をおいて運営されているのだ。

「観光だけでなく、生活者の視点からもこのまちをよくしていきたい。私たちはこれからもずっとここで暮らしていくわけですからね。だから、“景観保全”じゃなくて、“景観づくり”なんです」

そんな須坂が、ここ数年で「変化してきた」と小林さんは言う。

「コロナ禍前のことですが、突然海外からの観光客が増えたんです。それは市内に古民家を改装したゲストハウスができたことがきっかけでした。宿だけじゃありません。同じように、カフェやインテリアショップ、レストランなど、お店やそこで働く人を目当てに須坂を訪れる人が増えたんです。その人たちは須坂に観光をしに来て、お店に寄るんじゃなくて、お店に遊びに来て、須坂を観光しているんですね。好きな宿に泊まりに来る、お店に買い物に来る、ついでに古い商家や小路があるまちを散策してみて、須坂のことを好きになってくれるわけです」

お店と人、人と人のつながりで、須坂のファンが増えてきた。それは小林さんにとって衝撃だったそうだ。

「僕らが思っていた観光地やリゾートとはまったく違う、新しい観光地の概念みたいなものが見えた気がしますね」

まちに残る古民家を改装してお店を開きたいという人のために、小林さんは須坂市と一緒に空き家バンクの運営も行っている。その活動からは、築150年という国の登録有形文化財を利用した一日一組限定の宿『白藤』も誕生した。

「こういった貴重な建物が須坂には残っているんですよね。もっと多くの人に、それを知ってもらえればと思います」

須坂を訪れる人は増えているが、一方で小林さんはやはり生活者の目線で須坂を語る。

「大きな病院も学校もスーパーもある。電車でも車でも30分もあれば長野駅まで行けるし、とても暮らしやすいまちです。その生活のなかに文化遺産があって、少し立ち止まって眺めたり……一言でいえば“とても居心地がいいまち”といったところでしょうか」

02.
「ぶどうは、土地に加えて、ノウハウの継承がすごく大事。須坂には両方があるから、本当に美味しいぶどうができる」

境果樹園  境賢光さん

「東京の大学に通い、就職活動もしていたんですが、子どもの頃から慣れ親しんだ須坂の雰囲気とか時間の流れ方とか……うまく言えないんですが、そういったものが忘れられなくて、実家の農家を継ぐ決意をしたんです」

そう話す境さんはまだ20代の若手農業者だ。

境さんは、ただ家業を継いだわけじゃない。作物はぶどうだけに専念している。須坂はフルーツ王国といわれる土地。ぶどうのほか、りんごやさくらんぼの生産も盛んだが、境さんのぶどうにかける思いは強い。

「3年ほど前まではりんごも作っていたんですが、僕はぶどうに絞りました。理由は、ぶどうが好きだから(笑)。ぶどうって果実はすごく多様性があって、奥が深いんです。品種だけでも世界的にみれば1万種類以上あると言われています。そして、同じ品種でも環境や育て方によって、味も香りも違ってくる。味も甘いだけじゃなくて、酸味やコクもある。実のつまり方も関係してきます。それに、収穫期のぶどう畑をみたことありますか?色鮮やかですごく美しいんですよ!」

その味わいと美しさ、その両立が難しい。ぶどう栽培は簡単じゃない。さまざまな条件が揃わないといいぶどうは育たない。

「須坂は、いわゆる扇状地。水はけがよく、米づくりが難しい反面、ぶどう栽培には適した土地です。だけど、それだけでは美味しくて美しいぶどうはできません。本当にいいぶどう、僕らが納得して皆さんに食べていただけるぶどうの実がなる木を育てるには7年はかかります。土壌作りもいれると、もっとかな。だから、そのノウハウを引き継いでいける環境もないといけないし、経験を積んでいくことも大事なんです」

境さんも最初は実家の近くのぶどう農家で修行し、いまも研鑽中だと謙遜するが、境果樹園のぶどうは好評で、年々ファンを増やしている。

じつはいま、須坂では境さんのような若いぶどうの生産者が増えつつあるのだという。

「10年ぐらい前からシャインマスカットに代表されるように、ぶどうがブランド化してきました。生産者からすると、ぶどうに特化して農業をやっても生活していけるようになったんです。また、須坂には今人気上昇中のナガノパープルや今年デビューしたクイーンルージュが生まれた長野県の果樹試験場があります。すぐ近くで新しいぶどうが生まれているっていうのは、やはり刺激になりますよね。そういう背景もあって、意欲的な若いぶどうの生産者が増えてるんだと思います」

10月の収穫シーズンになると、須坂には他県からもぶどうを買いに来る人が大勢いる。なかには東京からも。

「直売所では朝5時から行列ができるとか。すごいですよね。僕の境果樹園ではECもやっているんですが、うちを選んで毎年購入してくれるお客様もいらっしゃる。うれしいですよ」

収穫シーズンの終わった冬は、枝の剪定や土作りに専念する時期だ。

「地味だけど、これも大事な作業です。やっぱりいくら土地がいいと言っても手をかけないと、ずっと続けていかないと荒れてきてしまう。この土壌を守って、次の世代にも引き継いでいきたいと思いますね」

03.
「全国50箇所はまわったけれど、須坂の風景はスペシャルですよ。なぜなら……」

REWILD NINJA SNOW HIGHLAND 代表 山口雄輝さん

キリマンジャロに登頂しウルトラマラソンにも挑戦、世界30ヶ国をまわるなど、冒険好きが高じて、グランピング施設をはじめとする外遊びブランド「REWILD」を立ち上げた山口さん。須坂との出会いは偶然だった。

縁があって声がかかり、視察に行ってみたんです。そしたらロケーションがすごくて!仕事柄、日本国内で50箇所ぐらいでキャンプしていると思うんですが、そのなかでも断然素晴らしかった」

須坂の市街地から南へ、車で30分ほどのところにある峰の原高原は知る人ぞ知る雲海スポット。山口さんは「峰の原から見る風景はスペシャルです」と言う。

「まず標高が高くて約1600m。市街地からマイナス10度ぐらいは気温が低いからそれだけ空気が澄んで、遠くまで見渡せるんですね。しかも、峰の原高原の最高地点付近では目の前に山がない。遮るものがないから、雲海がドバドバと見える。そして、奥のほうには北アルプス山脈が!ガスっている時は神秘的だし、天気のいい雲のない時でも美しい。つまり、どんなコンディションの時でも絶景が楽しめるんですよ」

その風景に惚れ込んだ山口さんは、峰の原高原でグランピング施設をやりたいと即決。

「結果的にグランピング施設と一緒にスキー場もやることになりました(笑)。そうしてオープンしたのが、グランピング施設『REWILD ZEKKEI GLAMPING RESORT』とスキー場『REWILD NINJA SNOW HIGHLAND』です」

グランピングは1年目、スキー場は2年目と、まだスタートしたばかりだが評判は上々だ。

「手応えはあります。一度でも来てくれた人は、その素晴らしさに感動してくれていますね。景色はもちろんですが、それをいかしたエンターテインメントも充実させています。例えば、スキー場。キッズエリアは日本最大級ですし、10mの巨大ARニンジャ、場内謎とき、VR体験、そば打ち、絶景ポイントでの長さ8mの巨大ブランコ、日没後はオーロライルミネーションショーなどを行っています。ほかでは類を見ないトップクラスのコンテンツを用意し、雪山をエンターテイメント化するといった構想とクオリティに期待していてください

じつは、これはスキー場だけの話じゃない。山口さんには、絶景ともうひとつ須坂で注目しているものがある。

「スキー場近くのペンションです。40軒ほどあります。スキー場と宿泊施設は両輪で盛り上げていかないといけないので、僕はすべてのペンションをまわってインタビューしたんですが、すばらしい宿がたくさんあるんですよ」

大規模なリゾートホテルや高級旅館にはない、ペンションにはペンションのよさがあると山口さんは言う。

「まずご飯が美味しい!僕、食べることが好きで、東京でもいろんなレストランまわってますが、引けを取らないどころか、こっちのほうが美味しいと思うペンションとかありますよ。そして、なによりも人ですね。すごく温かい。夕食の後、食堂で宿泊客とオーナーや従業員の方が一緒になってお酒をたのしむ……みたいなことができるのがペンションのよさだと思うんです」

最後は、山口さんのエピソードで。

「昨年、スキー場運営をはじめた時、リフト乗り場で地元の従業員の方が“行ってらっしゃーい”と子どもたちに声をかけていて、子どもたちも“行ってきまーす”と返しているのを見ました。そういう温かい人たちがいるっていうのも、須坂の魅力だと思いますね」

3人が語る須坂の魅力を
1本の動画に凝縮しました!

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