「病院にいるよりも天国に行きたい」難病と闘い続けた、5歳の少女「最後の願い」
5歳の女の子、ジュリアンナちゃんは、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)の患者でした。治療法は見つかっておらず、末梢神経障害による筋力低下や感覚低下が、手足の先端部などに症状として現れる難病と言われています。
なかでも症状が重かった彼女は、歩くこと、食べること、そして、呼吸することさえ自分の力ではできませんでした。そして、両親に「病院にいるよりも、天国に行きたい」と訴え、緩和ケアを選択。2016年6月14日に、安らかに天国へと旅立ちました。
「緩和ケア」という選択。
彼女は、治療の一環であるNT(naso-tracheal suction)が嫌いでした。鼻からチューブを通さなければいけない気管吸引法です。もがくために、医師に押さえつけられ、あたりに叫び声が響き渡るほどだったそう。
担当医師からは、次に症状が悪化すれば、風邪をひいただけでも死に至る可能性があると伝えられていました。もう残された時間が長くないこともわかっていました。
母親のミシェルさんは、神経科医。家族一緒に安心できる場所で最後の時を過ごすのか、少しでも延命させるために治療に臨むのか。両親ともに悩み、考え抜いた末、本人の意志に委ねる決意をしました。「緩和ケア」は延命や、死を早めることなく、苦痛から開放するための方法です。
ミシェルさんはブログにこう書いています。
今日は、呼吸器が必要になるくらい、少しハードな一日でした。ジュリアンナは取り乱していたけれど、そんなに長くは続きませんでした。でも、その姿を見ている私はつらい気持ちでした。
昨日、私たちは天国の本を読みました。私たちは、もし次に彼女の容体が悪化したら、どうやって病院に連れて行こうかと考えていました。彼女が苦しんでいる様子を思い浮かべるのはとてもつらいことです。
私は聞きました。返事は即答で、はっきりしていました。
M(ミシェル)「もしまた病気になったら、病院に行きたい?家にいたい?」。
J(ジュリアンナ)「病院はイヤ」。
M「もし、家に居続ければ、天国に行くことになるんだよ?」。
J「うん」。
M「パパやママは一緒に行けないの。一人で行かなきゃいけないわ」。
J「心配しないで。神様がいるから」。
M「もし、病院に戻れば、もっと良くなるかもしれないし、また家にも帰れるよ。もっと家族一緒で居られるの。ちゃんとわかってる?病院は、パパとママと一緒に居られる時間をもっと増やしてくれるんだよ」。
J「わかってるよ」。
M「ごめんなさい。ジュリアンナ。私が泣いているところを見たくないのは知ってる。だけど、寂しいの…」。
J「大丈夫だよ。神様が一緒にいてくれる。心の中にいるの」。
2015年2月19日
諦めとは違う。
どう生きていたいか。
この会話より以前、両親はジュリアンナちゃんを病院に連れて行こうと話していました。が、それがとても親のエゴだということに思い至ったそうです。
この質問に対しては、“誘導だ”という声や、10歳にも見たない子どもに死は理解できないとして批判する医師のコメントも出ました。
しかし、彼女は誰よりも死についてよく理解していた、と父親のスティーブさん。CNNにこう話しました。
「彼女は、自分のことを誰よりもよくわかっていました。緩和ケアは、諦めとは違います。人生をまっとうするまで、どう生きていたいかを選択することなのです」。
今年6月14日。ミシェルさんは、ジュリアンナちゃんと別れたことについて、その心境をこう書いています。
「私たちの娘は、今日天国に行きました。言葉にできません。心が苦しい。ただ、感謝しています。私は素晴らしい子どもを授かった世界で一番幸せな母親でした。出会ってから、もうすぐ6年でした。もっと時間が欲しかった。でも、彼女は今自由になりました。もっと言葉を尽くすべきかもしれませんが、今はただ、それだけです」。
いつか、天国で再会する日を思い描いて、二人はこんな会話を交わしたそう。
J「天国に来たとき、すぐに見えるように家の前に立っててほしい?」。
M「そうね。また会えたら、きっと嬉しいわ」。
J「うん。きっと私のところまで走ってくるよね」。
M「そうね。あなたもママに向かって走ってくると思うよ」。
J「速く走るよ」。
M「うん。きっとすごく速く走れると思う」。
ジュリアンナちゃんは、2015年の秋ごろからホスピスに登録して緩和ケアを受けていました。病院に戻りたいという意志はなく、最期は心地よさそうな表情で永遠の眠りについたそうです。
母親のミシェルさんは、およそ2500人に1人が発症すると言われているCMTについてもっとよく知ってほしいという思いから、その経験を書籍にして販売。収益を全額、Charcot-Marie-Tooth Association(CMTA)へと寄付しています。