岐阜・可児市で世界中のアーティストに愛される「ヤイリギター」が出来るまで
ポールマッカートニーや桑田佳祐など、著名なミュージシャンに愛用されている「ヤイリギター」。1965年の設立以来、メイド・イン・ジャパンにこだわり続けてきたそのギター工房が、岐阜県可児市にあります。
30人のクラフトマンの手から生まれる
1日20本の「本物」
ヤイリギターでは、熟練の技術を持った30人のクラフトマンたちが1本1本手作業でギターをつくっています。1日に生産できる本数は20本ほど。この規模のギター工房としては決して多くはない本数ですが、プレイヤーに本物のギターを届けるために、手作業による多種少量のものづくりの姿勢を守り続けてきました。
「K.YAIRI」の誕生まで
ギターづくりは基本的には分業制で、20近くある制作工程を職人がそれぞれ分担してギターを組み立てていきます。
まずは、木の個性を知り尽くしたクラフトマンが素材の木材を選ぶところから。木材が高く積み上げられた材料倉庫は一歩足を踏み入れると木の香りが漂います。湿度によって変形しないよう、材料を3〜4年、長いものではなんと10年以上も自然乾燥。日本の高温多湿の気候に慣らすことで、はじめてギターの材料として使うことができるのです。
乾燥させた板から、ギターのトップ(表面)に使う部分を選別してギターのひょうたん型に抜きます。ちなみに、トップに使われる木材は、直径1m以上の大木の丸太のうちたった3分の1と、とても貴重なものなんだとか。
大きな機械を使って行うのは、サイドの板をひょうたん型にしならせる工程。板をお湯にどっぷりとつけて水分を含ませた後、専用のプレス機でゆっくりと熱をかけながら美しい曲線を生み出します。
何年もかけて乾燥させた板を濡らしていいの? と思いきや、短時間に一気に水分を吸収させる分には、すぐに水分が抜けていくため影響がないそうです。
曲線を描いた最後の板と、ひょうたん型のトップの板を膠(にかわ)で接合するといよいよギターらしいかたちに! 接合部分は、バインディングと呼ばれる樹脂や木でできた装飾材で囲むように隙間を埋めていきます。
バインディングは見た目を美しく仕上げるだけでなく、角を保護するためでもあります。美しさと耐久性は、まさに表裏一体。
ここは、湿度管理された「シーズニングルーム」。塗装前のギターの保管庫です。
スピーカーから大音量で音楽が流れていました。徹底的に湿度管理がなされた部屋で、ギターに音を聞かせることで、完成前から振動を与え、よく鳴る楽器に育てるのです。その様子は、お腹の中の赤ちゃんへの “胎教” にも例えられます。
いよいよ、ボディとネックの接合。
ボディのくぼみにネックの出っ張りを組み合わせるようにはめ込みます。ネックの角度は弦の高さを左右し、形状はプレイヤーの手の感覚にも直接影響する重要な部分。
ヤイリギターでは、ネックの形を「三角型」「かまぼこ型」「ヤイリ型」の3種類制作しています。経験によって培われた感覚で、のみや小刀を巧みに操り微調整を重ねます。
滑らかにスルスルと削っているように見えますが、ネックシェイプは特に熟練の技術が必要で、この道40年のクラフトマンだからこそできる職人技。完成品のギターもよく見ると、のみで削ったあたたかみのある手仕事の跡が残っています。
音の振動を妨げないよう、極薄の塗装を重ねたギターは制作の終盤に入ります。フレットと呼ばれる音程調整の金具の取り付けは、7割を機械で仮打ちし、残りの3割は手作業。
トントンと軽快なリズムを刻みながら、寸分狂わぬ正確さで1本1本丁寧に埋め込んでいきます。フレットが埋め込まれたギターには、再び音楽を聴かせて響く楽器に育てます。
最後にワックスをかけて鏡面のようになるまで磨き、弦を張って仕上げたあとは、1本1本サウンドチェック。職人たちの厳しいチェックをクリアしたものだけが、晴れて世界中のプレイヤーのもとへと旅立ちます!
生涯パートナーでいられるギター
「永久品質保証」
すべての工程を終えてギターが完成するまで、およそ3ヶ月。クラフトマンたちが1本1本のギターに真摯に向き合い制作する過程から、多くのギタープレーヤーを魅了する所以が伝わってきました。
それから、完成後の「永久品質保証」というアフターケアもヤイリギターのこだわり。リペア専任のクラフトマンがプレーヤーとギターが生涯パートナーでいられるよう、そして一世代だけでなく、子や孫へ弾き継がれるようサポートします。
プレイヤーと観客を魅了する音色、そして楽器の枠を越えてモノとしての美しさを兼ね備えたヤイリギター。
ギターに「K.YAIRI」の文字を見つけたら、クラフトマンたちの手の温度を感じてください。
「ヤイリギター」
住所:岐阜県可児市下恵土3230-2
工房見学:毎週土曜
1部 10:00~、2部 13:30~
の2部制(要予約)