一本の「長〜い糸」だけで、これらのポートレイトは描かれていた

その長さ距離にして約2キロメートル。1本の長〜い黒糸と28インチの自転車のリム。道具はこの二つだけ。あとは、リムの外周に200個設置したフック状の錨に、ただひたすら放射線状に糸を絡めていく。これを約3,000〜4,000回繰り返していく地道な作業の先に、想像もつかない展開が待っていた。

張り続けること3,000回以上
「糸」が輪郭を形成する

単純に糸を張り合わせていくようなものではない。できあがりをイメージしながら、放射状に張った糸の重なり具合を緻密に算出し、韻暗をつくりあげていく。そうして、糸を重ね合わせていくことで立体的に浮き上がってきたのが、ルネサンス期に活躍した画家エル・グレコの肖像画のモチーフだ。

テクノロジーを駆使しても
最後は人間の手で創造する

「A new way to knit」と題された一連の作品は、ギリシャ人アーティストPetros Vrellisさんによるもの。じつは彼が最も得意とするのは、ニットを使った制作ではなく、コンピューターサイエンスによるデジタルアートが専門分野。

今回のプロジェクトもデジタル画像を取り込んだプログラム上のアルゴリズムから、糸の張り方を計算していったそう。計算から導き出されたパターンは、じつに20億通り。そこからパターンを最適化して導き出したのがこの技法。さすがに、これは人間の力だけでは太刀打ちできない。

けれど、最後は人の手にこだわったrellisさん。こちらも気の遠くなるような作業をひたすら繰り返し、ビザンティン美術の表情が蘇った。

編み物の歴史は旧石器時代まで遡る。ニット編みを技法として用いるアート作品は数あれど、放射線状にしか糸を張っていけないという、デザインパターンに極端な制限があるなかで表現していく上では、ポートレイトが最も興味深い対象だった、とVrellisさん。以下の動画では、実際に長〜い糸を丁寧に編み込んでいくプロセスが確認できる。

Licensed material used with permission by Petros Vrellis, (Website)
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。