戦後日本の魚事情を支えた、八幡浜の「トロール」ってなんだ?

愛媛県八幡浜市の道の駅「みなっと」のすぐ正面に、網元の台所「海幸丸(かいこうまる)」というお店があります。新鮮な海鮮をつかった食事が楽しめるのはもちろん、隣接する「トロール市」では魚の直売もしています。

はて? トロール?

聞きなれない言葉だったので、日替わりの地魚フライ定食を注文しつつ、オーナーでもある昭和水産の宮本英之介さんに話を聞いてみました。

トロールは
伝統の「底曳(そこびき)漁」

トロール漁業は、沖合で行なう「底曳網漁業」のことで、2隻で1つの網を曳いて水深100〜200mの魚を獲る、八幡浜の伝統的な漁のスタイル。

トロール漁は全国にありますが、2隻で曳くのは下関や長崎、島根の浜田、岩手の宮古などの一部だけ。アジやサバのように中層にいる魚ではなく、海底にいる魚を一気に獲るんだそうです。エソ、タチウオ、イボダイ、イカ、マアジなど、その数200種類以上とも!

トロール漁のシーズンは9月1日から翌4月末。1回の航海の平均は2〜3日で、月に10〜15回ほど八幡浜港に戻って荷揚げをします。

トロール漁で
八幡浜の街が元気に

「戦後日本は食糧難で、動物性タンパク質を摂る必要があったんです。国策として、魚を中心に食料増産が求められました。八幡浜では、今うちが持っている2隻しかないんですが、昭和20〜30年代当時は54隻もあり、とにかく漁獲量が高かったんです。小さい魚でもカマボコやじゃこ天になり、練りものを中心に水産加工業も栄えたんですよ」

だいぶ縮小されたとは言え、このトロール漁からあがってくる、1000〜1500箱という魚が市場に並ぶことで、仲買や加工業も安定し栄えていたことが想像できますね。きっと、漁師が飲みに行ったり、パチンコを打ったり、スナックに顔を出すことも、街の経済の循環に影響していたはず。

海幸丸は
トロール船の名前でもある

そんな話を聞きながら待っていると、やってきました「網元の地魚フライ」。この日はタイかモンダイで選べましたが、水揚げによって魚種は変わるそうです。すべて天然物!

メニューも豊富で、ぶっかけ漁師めしスタイルや煮魚、さらに店内の鮮魚から選んで調理してもらえるセット(お刺身調理は無料)もありました。1日10個限定の「トロールバーガー」なるものも気になるところ。

ちなみに「海幸丸」というお店の名前は、昭和水産が今でも稼働させている八幡浜唯一のトロール船「第15・16海幸丸」と同じ名前です。この伝統漁を色褪せないようにと、2019年には新船建造に向けて動いているというからオドロキです。

「ここ数年、輸入魚ではなく国産の魚を食べよう、という回帰の動きが活発になってきたと思います。単価も上がりつつあるし、僕たちには守り続けてきたという気概もありますからね」

そんな、八幡浜の漁業の伝統を感じながらおいしい魚を食べるなら、海幸丸とトロール市へ立ち寄れば間違いなし。

「網元の台所 海幸丸」

住所:愛媛県八幡浜市沖新田1582-3(トロール市場内)
TEL:0894-24-7711
営業時間:11:00〜14:00
定休日:土曜日

 

「トロール市」

営業時間:7:00〜16:00

Photo by JAPAN LOCAL
取材協力:八幡浜市
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