目当ては「おとん」のメンチカツ。栃木・小山の肉屋は連日行列らしい
“連日行列”。これ、私が弱い言葉の一つです。
今回、栃木県小山市で見つけた行列の先にあったもの、それは、「おとん」のメンチカツ。
ちなみにその「おとん」ってのは、お父さんのことではありませんよ。小山のブランド豚の名称です。もう少し詳しく言うと、小山(おやま)の豚(とん)で、「おとん」ってことね。そしてこのおとん入りのメンチカツを作っている「肉のかわだ」は、栃木県小山市の駅から少し離れたところにあります。
このメンチカツ目当てに
連日行列ができるんだって
お店は今年(2018年)で創業50年。決して大きくはない町のお肉屋さんですが、地元だけでなく、口コミなどを見た県外からのお客さんも来るそうで、一番人気のメンチカツは一日200個くらい売れるんだとか。
「それ以上作れないんですよ。冷凍しておかないから」
と、店主の河田さん。豚肉はおとんの他に、栃木県産のブランド豚・夢ポーク、牛肉は小山産か栃木県産の和牛を秘伝の割合でブレンドしているそうです。
「パン粉も生パン粉で、イワイノダイチっていう県産の小麦粉をブレンドして作ってもらったパンから作ってます。ほら、小麦のいい香りがするでしょう」
色白のみんな、
いってらっしゃい…
そんなわけで、メンチカツを揚げるところを見学させていただきました。次から次に、色白のメンチカツたちが優しく油へ入れられていきます。きめ細かく泡立つ油、見る見るうちに小麦色に揚がっていくその様は、なぜだか目がはなせなくなり、はっとして傍にいたカメラマンに目をやると、同じく写真を撮る手を止めてうっとりと眺めていました(仕事してください)。
じゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
ポイッ!!(おぉ〜)
ま、なんだかんだ言う前に
食べてくださいよ
ということなので、なんだかんだ言う前にいただきました。
これまた感想を一言でいうのは難しいんですが、「んんん〜、んんん〜」←これを何回言うのよってくらい言いました。それ以上は言葉にならないです(察してください)。あっという間に食べました。このメンチカツ、一個150円だっていうけどさ、なんか、洋食店のメインになっちゃうような味だよね、って言い合いながら。
「お客さんは、残ったらメンチカツ丼にしても美味しいって言うんですよ。柔らかくなるから年配の方でも食べやすいっていって人気みたいで。女性のお客さんはパンに挟んでお昼に食べたりする人もいるみたいですよ」
メンチカツサンドおおおおおぉぉぉ(大好き)。
どうしてこんなに軽いのか?
それにしても、満腹状態でもさくっと食べてしまったほどのこのメンチカツの軽さよ。伺えば、いい油を使うこと、そして、フライヤーを別々にすることがポイントなんだそうです。同じ油でいろんなもの揚げちゃうと、味が絡んでしまうんだとか。
「そのまま食べてももちろん美味しいんだけど、このソースをつけて食べても美味しいですよ」
そう言って勧めてくれたのは、栃木県南にある4社の中濃ソース。少しでも県のものを宣伝できれば、と思って置いているとのこと。個人店でも道の駅でも4社ぶん置いてあるところはほとんどないようで、みんなお土産に買っていってくれるそうです。
ソースにしてもなんですが、最初に聞いた原材料や製法にしても、実はお店のあちこちに、たくさんのこだわりがありますよね、河田さん。
ちゃんとしたものを
食べてもらいたいってだけです
儲ける儲けないじゃなくて、ちゃんとしたものを食べさせたい、それが河田さんの心情。メンチカツだってどう考えても一個150円では見合わないほどのこだわりなのです。
「前に、ある居酒屋さんにうちのメンチカツを出したいって言われたんです。でも、どう調理されて付加価値をつけられるのかわからないから、断ったんです。もしそうなったら、うちの味じゃなくなっちゃうなぁと思って」
例えば原材料にこだわっても、こだわらなくても、お客さんにとってはどちらも同じメンチカツかもしれません。原価率は上がるし、ここのような個人商店は、大型店が「メンチカツ安売り」のチラシを打っただけで一気にお客さんを取られてしまう可能性も。実際にこの辺りも、昔は商店が立ち並ぶ地域でしたが、今ではここだけに。でも、それでも河田さんはこだわります。
「うちはこう、って言う色を持った個人商店がなくなっちゃうと、つまらないですよね。例えば会社でも一緒かもしれない。社員は誰にでも個性がある。人とちょっと違っても、会社はその人のいいところを引き出していって欲しいですよね」
思いがけず、仕事や会社の話になりました。他と違うからダメとかじゃなくて、それぞれの個性と向き合って伸ばす、そんな考え方で動いていく方が、会社も世の中も面白くなりますよね、って。
実は、レシピがないんです
で、この考え方は、ちょっとメンチカツの製法にも通ずるところがあって。
「うちのメンチカツは、何のマニュアルもないんです。レシピがない。大きな食品会社では配合割合が決まっていたりするけど、肉の油質はその時によって違う。だから私は、長年培った感覚で割合を変えたり、この肉とこの肉をブレンドしたらよくなるな、とか考えながらやっています」
河田さんが大事にしているのは、都度、原材料と向き合うこと。そのものの良さを引き出してあげたり、いいバランスを考えてあげること。
「“お客さんの口に入るもんだから”ってのが信条で、もうほんっとにうるさいんですよ。耳にタコで。何十年一緒にいても大変ですね。でも、昭和のおじさんの心意気なんでしょうね。お客さんはいいなあって思いますよ。私は大変だけど。しょっちゅう怒られてます(笑)」
そんな風に言って笑うのは、奥様の千恵子さん。それでも一緒にいるのは、認めているからですよね。
「そうですね。こんなに美味しいメンチカツは他では食べられないって思ってますから。他の人には作れないよねって」
作り手の中に、それを食べる人たちのことをこれだけ考えている人が、一体どれだけいるんだろうな、そんなことを考えたら、河田さんみたいに、一生懸命いいものを作ろうとしている個人商店が長くあり続けて欲しいなって思うわけです。
ま、なんだかんだ言う前に、このメンチカツ、みんなも食べてみたらどうですかね〜?
「肉のかわだ」
住所:栃木県小山市南小林13−2
TEL:0285-38-0674
営業時間:8:30~19:00
(※揚げ物の提供は、11:00〜13:00頃、16:00〜18:30頃になります)
休業日:不定休